ホスピタリティの法則その1 〜これって世界狙えますか?〜

 きょうも朝から風が強かった。寝ながらアパートが倒壊するかと思ったくらいだ。ドアを開けると、自転車のカバーが風に吹っ飛んで消えていた。なんてことだ。サイクルベースあさひ入間店で1580円も出して買ったというのに。そんな素敵な予感を感じさせる1日の始まりだった。

 電車に乗ってるとメールが来た。大学では2年後輩で長らく蒸発していたHが戻ってきたという。おーめでたいじゃんと思ったが、すっかり人が変わりおどおどしているという。何があったんだ。むしろふてぶてしい態度のヤツだったんだが。小川さんなんとか彼を外界に引っ張り出してやってください、とそのメールは締められていた。てか俺に振られても。まあ蒸発なんて話は珍しくもなんともないんだが、本当にHは大丈夫なのか。なんか最近俺の周りはこんな話ばっかだなー

 とまあ、そんなこんなも結局はただひとつの重要な示唆に行きつく。ホスピタリティである(ぉぃ)。

 というわけで、少しでもホスピタリティを実践していくべく、非常に人見知りかつ引っ込み思案な俺ではあるが、バイト先ではできるだけお客と絡むようにしているのだ。


俺「・・・・・・」(お客様のテーブルでワイン抜栓中)
客「・・・・・・」
俺「・・・・・・」(ワイン抜栓中)
客「・・・・・・」
俺「風だいじょうぶでしたか?」(緊張でやや上ずった声)
客「えっ?! ああ、だいじょうぶでしたよ」(急に話しかけられて驚いたようす)
俺「そうなんですかー^^」(ワイン抜栓中)
客「まあ電車だったら大変だったろうけどね」
「あー お車なんですか?」(ワイン抜栓中)
「そうなんですよー」
(ワイン抜栓中)
一堂「・・・・・・・・・・・・」
気まずい。

 おかしい。本来ホスピタリティとは、こんな飛び道具的破壊力など持ってはいないはずなのだが。そう。俺のホスピタリティはまだまだだということだ。


 ところで、重要な法則を発見した。その日俺は、ひたすら携帯電話で自分の声を吹き込んでは再生を繰り返していた。なぜかといえば「感じのいい話し方」を研究していたのだ。真夜中にひとりで「大変お待たせいたしました!」「大変申し訳ございません」「それではごゆっくりどうぞ!」などと繰り返し喋ってる姿は怪しすぎるが、それ以前に自分の声を聞くのはなぜこんなにも恥ずかしいのだろう。なぜだ。まあ何度もやってると慣れてくるけど。

 そんなエキセントリックな試行の結果、重要な事実がひとつ明らかとなった。高い声の帯域で喋ると、つまり、声の帯域は人それぞれだが、その人の持つ声の帯域について高い部分で発声すると非常に感じが良いということだ。というか、少なくとも感じ悪くはない。俺はとにかく噛んでしまうのだが、自分の喋りを客観的に聞いていると、高い部分の声で話しているとたとえ噛んでもさほど感じが悪くはない。それに対して、ふだんの地声の下の方の高さで喋っているとどんなに心を込めても何だかぶっきらぼうな印象を受けるのだ。

 こんな事実に今まで気づかなかったとは・・・。

 というわけでさっそく平日昼間のフリータイムにひとりカラオケに出かけ、EXILEを何度も歌っては高い部分の声が出やすくなるようにと特訓した。ただ、いきなりの原曲キーEXILEは相当ノドには過酷だったらしく、声がかすれて出なくなった。そして、ノドがいがらっぽくなり、今日は体が熱っぽい。どうやら風邪を引いてしまったらしい。俺はEXILEに完全敗北した。というか、ホスピタリティからなぜEXILEなんだ。結論としては、俺のホスピタリティはまだまだだということだ。